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医師向け情報

がんの検査 1
分子医学における新しいアプローチを使って

背景情報

過去30年間、がんの理解と治療の両方において意義深い進歩があった。しかし、がんはUSAにおいては依然として死因の第2位となっていて、国立がん研究所(NCI)の所長は2015年までにがんによる罹患と死亡を減らすためにがん共同体というものに挑戦した。

この目的を達成するには、治療の改善だけではなく、がん進行の個々のリスクを評価したり、もっと効果的に治療されるように早期にがんを検出したり、活動的ながんと非活動的ながんを区別したり、そして再発や治療への反応をモニターする方法を改善することが必要であろう。無症状の集団をスクリーニングして、早期のがんの存在を知る方法を改善することは、特にやりがいのある問題です。アメリカがん学会は最近、乳がん、大腸がん、前立腺がんを含む高発生率の多くのがんを早期に検出するために集団スクリーニングをするさまざまな診断テストを勧めている。

がんのもっとも重要なコントロールと予防にきわめて重要なことである。マンモグラフィーや前立腺特異抗原(PSA)のような従来の診断方法の進歩は病気の発見にある程度の改善をもたらしたけれども、早期がん検出に信頼できるほどの感度と特異度には達していない。多くの場合、がん細胞がすでに組織周囲に浸潤し、体のいたるところに転移するまで、診断、治療がされていない。乳がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんの患者の60%以上は発見された時点で、隠れているか明らかな転移巣があり、そして一旦がんが原発組織をこえて広がっていればたいていの従来の治療は成功することは難しい。より早期の状態のがんを検出することは、悪性の前の状態であったとしても、現在あるいは将来の治療戦略によって根治の確率がより高くなることを意味している。

男性にもっともよくみられるがんで死因の第2位である前立腺がん(CaP)の早期検出は困難で、現在の検出方法は不十分であるということはわかっている。PSAテストはCaP患者の早期診断には意味のある進歩である。PSAはほとんどもっぱら前立腺において産生され、この前立腺の異常はしばしば血清濃度の増加を伴っている。しかし、PSAにはCaPに特異性がないために、多くの患者は良性や不顕性の腫瘍でも不必要な生検や治療を受けている。このように、CaP検出のもっと特殊な方法が、PSAでのスクリーニングを強化しとってかわる必要がある。最近、循環血中の蛋白バイオマーカーの費用対効果のあるアッセイを生み出すことに焦点が当てられている。

画像による診断方法は、個々のがんを同定するのに使用される一方、多くは無症候の大集団をスクリーニングするにはあまりに時間とお金がかかりすぎる。さらに、その方法は操作が困難で不便であるので、そのグループのスクリーニングに役立つことには限界があるということであるものは一般集団には抵抗があった。
また画像診断は侵襲的治療がほとんど効果がない進行期になるまで診断されないような、しばしば小さい病変を見落とす。過去数年間で、がん検出と予後のためのツールとして分子マーカーは、完璧な診断ツールとして、そして今の画像診断法の技術を補完するものとして、興味と熱心さが増してきている。

最近ASCOやAACRの会議では、例えばPSAよりももっと実現可能なマーカーとして前立腺がんにおけるCTCのように多くの固形がんにおいて早期に検出される代わりになるマーカーに注目している:
“体液サンプルは広く受け入れられるし、容易にくりかえされるし、便利で非侵襲的で、低価格であるので、画像よりも利点がある。体液のバイオマーカーは体内のがんの存在をあらわす血液、尿、さまざまな他の体液成分を含んでいる。これらはCTCや、例えばがん細胞由来の脂質、蛋白質、RNA、マイクロRNA、DNAのような大分子も含んでいる。”

バイオマーカー

バイオマーカーはがんの検出とモニターに重要なツールである。病気の経過の間に与えられた時間変化で一つの細胞に起こる生理学的状態の特徴を表す。遺伝子突然変異、転写と翻訳の時の変化、そして蛋白酸性の変化はすべて、病気の特別なバイオマーカーとして強力に働くことができる。

前立腺特異的膜抗原

前立腺特異的膜抗原(PMSA)は健常人とCaP患者の上皮細胞で高濃度に産生される膜糖蛋白である。PSMAの相対的産生はCaP組織の上皮細胞で増加することがわかっている。

CD24

イスラエルチームの報告によれば、CD24蛋白の血中レベルをテストするだけで、大腸直腸がんの検出に90%以上の感度と特異度があり、腺腫を同定するのに80%以上の正確性がある。CD24蛋白は細胞表面蛋白であり、Pセレクチンリガンドであり、細胞接着と転移に関係している。

がんはいかにして発生し、なぜバイオマーカーは役立つのか

がんはジェネティックとエピジェネティックの変化が蓄積することにより影響を受けた細胞において蛋白発現に変化を起こすことから発生する。特殊な蛋白のレベルが増加、または減少し、あるいはその機能や分布が翻訳後に修飾されて変えられる。これらの蛋白の変化が細胞代謝と生理、細胞成長と死、そして他の細胞と組織にシグナルを送る分子の分泌に影響を与えうる。がん研究において、分子バイオマーカーは体の中のがん細胞の存在を示す物質と関連がある。バイオマーカーには遺伝子と遺伝子変異、mRNAあるいは蛋白発現における差異、蛋白の翻訳後の修飾、代謝産物がある。がん進行の間に起こる分子変化は何年もかけて起こりうるので、遺伝子的、プロテオーム的、代謝学的バイオマーカーはすべて、がんの検出、予後の決定、病気の進行と治療に対する反応をモニターすることに非常によく使用される。

関連するバイオマーカーを発見する際に関与する研究のタイプ

伝統的に生物学的研究は仮説に基づいている;研究者は仮説を発表し、それを検証する実験をデザインする。最近の高度処理技術の進歩により、さらなる技術主導の研究を生み出した。仮説を発表するよりも、研究者は高度処理技術を生物学的機構に適用して、さらなるテストに向けて仮説を生み出すように興味ある結果を導き出してくる。例えば何千もの相補DNA(cDNA)を含むマイクロアレイを使って正常組織に対するがん組織での遺伝子発現の違いを見出すことができる。仮説主導と技術主導による研究はともにバイオマーカーの発見に利用できる。

遺伝子技術

遺伝子技術は、環境要因により起こってくる発癌転換と遺伝子変化が背景にある遺伝的要因を決定したりモニターしたりできる。普通に使われている遺伝子技術にはDNAマイクロアレイ、PCRを基礎とするアッセイ、蛍光遺伝子プローブ法(FISH)がある。DNAを基礎とするバイオマーカーには、遺伝子変異、異型接合性の消失(LOH)、マイクロサテライト不安定性、そしてDNAメチル化がある。RNAを基礎とするバイオマーカーにはたいていの組織と体液でみつけられるmRNAがある。
DNAマイクロアレイは、何千もの遺伝子の発現を同時に決定し、さまざまな生物学的状態下での遺伝子発現プロフィールを決定することを可能にすることにより、分子生物学分野に革命をもたらした。

DNAマイクロアレイの欠点は、相対的な遺伝子発現レベルにおいてのみであり、mRNAの定量的測定における情報を提供しているのではない。リアルタイムPCRは遺伝子発現の定量的測定を提供し、少しのサンプルの処理のみで、放射線を使用せずに増幅と分析をする代替技術である。

プロテオミクス技術

プロテオミクスという言葉はもともと大規模に高度処理できる蛋白の分離と同定をあらわす造語であったが、蛋白の機能と構造分析を含むように拡大された。プロテオミクスは、ゲノム科学による情報とは、相補的でもあり、異なる情報も提供したりもする。蛋白を基礎としたバイオマーカーは、組織や体液で見つけられる蛋白のレベルや翻訳後の修飾による変化も含んでいる。プロテオミクス的アプローチの利点は、確立した定量化できるアッセイ法を含んでいることである。実際、今日クリニックで使われているたいていのがんバイオマーカーは血清蛋白の検体を基礎にしたテストである(例えば、前立腺がんのPSA、卵巣がんのCA125)。

技術的に高処理できるプロテオミクス的アプローチは、2次元ゲル電気泳動(2-DE)とさまざまな形態の質量分析(MS)を含んでいる。コントロールとがん組織やがん細胞から抽出したものは、2-DEにより分割され、その強さが病気の組織で増減している蛋白は、MSを使って同定される。

大規模な蛋白分析には数多くの新しい方法が使用され発展している。これらのいくつかはMSとデータベースの照合に信頼していて、液体クロマトグラフィーにより蛋白抽出物を分画化し、MSにおいて蛋白やペプチドを同定する。

代謝物の技術

メタボロミクスは細胞、組織、そして体液に存在する代謝物を研究することである。がんを検出しモニターするメタボロミクスの利便性が高いのは、これらの分子の独自性、濃度、流動性が、遺伝子発現、蛋白発現、細胞環境の相互作用の最終産物ということからである。

スクリーニングにおけるバイオマーカーの追加使用

画像はがんのスクリーニングにもっともよく使用される方法である。最近、乳がんに対するマンモグラフィー、大腸がんに対する大腸内視鏡、肺がんに対するX線は、良いスクリーニング法である。マンモグラフィーは第一線のスクリーニング手段である一方、その感度は、高密度そして不均一に高密度の乳房では有意に減少し、極端に高密度の乳房では触知できる腫瘍のほぼ半分は見失う。このような不確実性により、不必要にくりかえされる放射線被曝、外科的操作、そして予防的乳房切除による精神的感情的ストレスを起こす。マンモグラフィーに比較して、MRや超音波は悪性および浸潤しているがんをよりうまく検出することができる。これらの画像戦略は、マンモグラフィーによるスクリーニングの欠点を改善すると考えられてきた。しかし、いくつかの研究グループは、これらの感度のよいスクリーニング法はUSにおいて過剰診断をきたし、その結果リコールの増加と外科的直視下生検の否定につながっている。これらの画像診断技術と分子学的スクリーニング法がコンビネーションすることによりこの状況を打開する助けとなる。

感度と特異度

がんのスクリーニングテストの統計的な特徴は、感度と特異度である。がんスクリーニングの状況で、感度とは陽性と判定されたがんを持っている人の割合を示す。特異度とは陰性と判定されたがんを持たない人の割合を示す。理想的なスクリーニングテストは100%の感度と特異度を持っていることである:すなわちがんを持っている人のすべてが陽性となり、がんを持たない人はすべて陰性となることである。残念ながら、勧められるスクリーニングテストのほとんどは理想的な性能特性が少なくて、多数の偽陽性や偽陰性を生み出している。デジタル直腸検査(DRE)は前立腺がんでよく普通に用いられるスクリーニングテストである。しかし、その感度と特異度は非常に幅広くしばしば信頼できない判定が起こる。PSAテストはこれらの不適格性に対応しようとしている。血清PSAの正常範囲は0~4ng/mlである。この範囲より高いPSA値は前立腺がんの存在の可能性を示す。しかし、PSAは前立腺がんに特異的ではない。70%の感度と59~97%の特異度であり、さまざまな研究でさまざまである。大多数の遺伝性がん、例えば遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、遺伝性非ポリープ性大腸がん(HNPCC)、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)は、これらのがんが進展するリスクは個人の生殖細胞系列変異にある。例えば、乳癌関連BRCA-1遺伝子は220-kDの核蛋白をコードしていて、それはDNA修復、mRNA転写、細胞周期制御、蛋白質ユビキチン化の原因であり、細胞経路に関係することによってDNA損傷に応答している。BRCA-1/2突然変異は進行性乳がんの家族歴をもつ女性のリスクを決定するのに使用される。少なくとも乳がん患者の10%はBRCA突然変異を保有している。片方の乳がんを診断されたBRCA保有者は、一般大衆と比べて反対側の乳房に高度の進行性乳がんのリスクが高くなる。

早期検出のバイオマーカー

発癌への形質転換は、しばしばバイオマーカーあるいは異常分子の分泌増加をきたす。体液でのこのようなバイオマーカーの存在は、その病気の経過の情報を得ることができる。研究が示しているように、特異蛋白がさまざまながんで過剰発現していて、例えばPSAは前立腺組織で分泌され、前立腺がんの臨床管理によいことは認められている。CA125は卵巣組織で分泌され、卵巣がん特異蛋白として認められている。このよなバイオマーカーの同定は、早期のがん検出により治療オプションを広げ、それによって生存率を高め、よりよい病気管理を提供する可能性があるので、非常に興味深いことである。

早期検出のバイオマーカーに対する一般的な的確な批判というのは、早期検出が必ずしも罹病率、死亡率の減少をもたらさないということである。がんがあると正確に診断されても、早期検出による利点よりも治療の副作用が大きいことである。これらは的確な指摘であるが、早期にもっと正確にがんを検出することにより誤った結果の数を減らし、治療戦略を求めるための刺激となり、そして病気管理がよりうまくいき、それによりがんによる苦痛や死亡を減らすことになるであろう。

バイオマーカーのグループ

とくに3つのグループのバイオマーカーが生物学的パターンを示していて、それは99%以上の特異度とほぼ100%の感度で卵巣がんの早期検出と再発に使われるかもしれない。
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